「つまようじ法」は歯周病の予防・治療のため、歯間部の歯垢を除去することを目的に考案されたブラッシング方法です(Morita et. al., J. Clin. Periodontol., 25; 829, 1998)。
これによって歯周病による歯の動揺は改善され(森田他、日歯周誌、29:205,1987 )、口臭も減っていくこと(恒石他、口腔衛生会誌、53: 345、 2003)が岡山大学予防歯科の研究で明らかになりました。特に歯肉出血は従来の治療法と比べて一週間で有意に改善されます(B. Cakilci et. al., Intern. J. Oral Health, 5: 17, 2009)。
歯肉出血の改善は「つまようじ法」の最も大きな特徴です(渡邊達夫:できる、効果がわかる!つまようじ法, 平成29年4月, 東京, (財)口腔保健協会)。
「つまようじ法」の概略
従来の理論との違い
歯周病・インプラント周囲炎の治療法において、これまで原因除去療法として、歯垢・歯石を除去してきました。
「つまようじ法」は機械的刺激によって歯肉の細胞を増殖させ、感染防御機構を高める宿主強化療法です。理念が違えば、やり方も道具も違ってきます。
効果の違い
歯肉細胞の増殖により歯肉出血が改善します。
「つまようじ法」で歯のグラつきの改善、歯周炎の再発防止、口臭の改善、歯の寿命の延長が証明されています。
歯周病原菌は増殖に血液成分が必須ですから、病原菌の栄養を遮断します。
術式のむずかしさ
口蓋側や舌側から毛先を歯間部に挿入するのがむずかしいことや、ブラッシングの力加減が分からない、歯ブラシの運動方向が違うなどの声があり、効果に個人差がありました。
「つまようじ法」の術式
STEP1歯ブラシの毛先を歯と歯ぐきの境目に当てる。
STEP2歯ブラシの毛先を歯の先端側に向ける。
STEP3その角度を維持したまま、毛先を爪楊枝の要領で歯と歯の間に押し込む。
反対側に突き抜けるのが確認できたら、毛先を引き抜く。
このピストン運動を10回くらい繰り返す。
「つまようじ法」の効果
「つまようじ法」を実施すると、初めての時はものすごく出血してびっくりします。しかし、まず1~2週間以内に歯肉出血は治ります。短期間で歯肉出血がなくなり、これが「つまようじ法」の特長です。ブラッシングのマッサージ効果によって血管内皮細胞や上皮基底細胞が増殖を始めるからです。また、出血がなくなると歯周病菌の栄養がなくなって菌が減るので、歯肉が腫れたり、痛み出したり、化膿することもなくなります。
歯と歯の間がきれいになり、口の中がさっぱりして気持ちよくなります。「つまようじ法」をマスターした歯科医師や歯科衛生士に磨いてもらうと、「四畳半の部屋が八畳の部屋になったみたい」とか、「口の中が変わった」、「今までの歯磨きはいったい何だったのだろう」、「目から鱗」、「ご飯を食べるのがもったいない」、「これほど理に適った歯磨き方法は今まで知らなかった」と言った感想をいただいています。
妊婦さんの喫煙と歯肉出血、どちらが胎児の発育をさまたげていると思いますか?
「つまようじ法」が臨床的に最も優れているのは、歯肉出血が1~2週間でなくなる点です。
妊婦においては、重度の歯周病に罹患していると低体重児出産や早期出産が多いことが知られています。
岡山大学予防歯科の調査では、「つまようじ法」で歯肉出血が治った妊婦と治らなかった妊婦から生まれた赤ちゃんを比べ、歯肉出血が治った妊婦から生まれた赤ちゃんは220g体重が重く(2,997gと2,777g)、大腿骨の長さが1.1mm長い(69,7mmと68.6mm)ことがわかっています。
歯肉出血非治癒 歯肉出血治癒 両者の差 新生児体重 2,777g 2,997g 220g 大腿骨の長さ 68.6mm 69.7mm 1.1mm 岡山大学 妊婦の歯肉出血が治ることによって胎児の発育が促進され、妊婦においても「つまようじ法」の効果が認められたと考えています。胎児の正常な発育をサポートするには、妊婦の歯肉出血を改善することが大切な一つです(Takeuchi,N., et. al., Arch Gynecol Obstet., 287:951-955, 2013)。
また、喫煙も胎児に与える影響が指摘され、妊娠中にタバコを吸い続けた母親から生まれた赤ちゃんはタバコを吸わない母親の赤ちゃんと比較して平均131g体重が少ない(3,057gと2,926g)ことが報告されています。
妊娠初期に禁煙した母親から生まれた赤ちゃんの平均は3,068gだったのです(Suzuki. K., et. al., J. Epidemiol., 26:371, 2016)。
喫煙している 喫煙していない 両者の差 新生児体重(男女平均) 2,926g 3,057g 131g エコチル調査 2016年, 環境省・山梨大学:鈴木孝太先生 歯肉出血の220gと喫煙の131gを簡単に比較することはできませんが、胎児の正常な発育には禁煙も大切ですが、歯肉出血を治すほうが重要と思われます。
歯肉出血部位は潰瘍を起こしているので、それが全身に影響することは十分考えられます。
妊婦健診などでこれに注目し、より健康な赤ちゃんが生まれることを期待します。
「つまようじ法」による動揺度の改善
平均101gの負荷で動揺が確認されていた歯が、「つまようじ法」の術者磨きをして2週間後、動揺が認められた負荷の平均は141gまであがり、その改善率は74%でした。
平均値±標準偏差(g) | 改善率(%) | |
---|---|---|
初診時 | 101±66 | |
2週間後 | 141±65 | 74 |
4週間後 | 147±66 | 78 |
8週間後 | 157±85 | 85 |
岡大・予防歯科:日本歯周病学会雑誌, 29, 205, 1987. |
「つまようじ法」による口臭の改善
口臭を主訴にして来院した患者さんでしたが、歯周病が激しかったので「つまようじ法」を主体とした治療を優先しました。ほぼ、炎症症状がなくなったので、口臭の状態を聞いてみました。「もう口臭はなくなった」という返事でした。「つまようじ法」を実践すると口臭も改善されることがわかったのです。
右図は口臭を主訴に来院した患者の推移で、Aさんは初診時1,150ppb(part per billion:10億分の1)もあった臭い物質が7回の来院で50ppdまで下がったのです。Bさんも550ppbが50ppbになりました。100ppbは他人が口臭を感じる濃度で、この実験では全員が口臭を感じられない状態にまで改善しました。
「つまようじ法」による歯の延命効果
「つまようじ法」によるブラッシングを中心に歯周治療をしている歯科の受診患者と通常の歯周治療を受けた患者の歯が残っていく状態を調べてみました。
年齢、性別、歯の数を同じにしてペアーを作って患者を選び、6年間の歯が失われた推移を見ました。通常の治療での一人あたりの抜歯本数は1.69本で、「つまようじ法」を中心としてきた組では0.75本で、抜歯本数を半分以下に減らすことができました。
ハーシェフェルド氏らの20年間の調査において、歯周外科手術を受けた人と受けなかった人での歯の寿命の差がなかったけれど、ブラッシングが良く出来ていた人は寿命が長かったという結果とよく似ています。
歯周病の予防・治療にブラッシングの役割は非常に大きいことが分かります。
術者みがきと現行治療法の歯の寿命の比較
年齢別対象者数と6年間の歯の喪失状況
口腔衛生会誌, 48;685, 1998. | |||||
年齢(歳) | 対象者数(人) | マッサージ群 | 現行治療群 | ||
---|---|---|---|---|---|
合計(本) | 平均値 | 合計(本) | 平均値 | ||
-19 | 1 | 0 | 0.00 | 1 | 1.00 |
20-29 | 3 | 0 | 0.00 | 1 | 0.33 |
30-39 | 24 | 30 | 1.25 | 17 | 0.71 |
40-49 | 47 | 32 | 0.68 | 101 | 2.15 |
50-59 | 33 | 18 | 0.55 | 55 | 1.97 |
60- | 4 | 4 | 1.00 | 4 | 1.00 |
合計 | 112 | 84 | 0.75 | 189 | 1.69 |