コラム

歯科医療は低体重児出産の防止に貢献できるか。

妊婦の歯周病と胎児の早期産、低体重児出産との相関関係は認められているが、妊婦に対してその予防のために歯周治療を勧めるかという問いに対して、推奨グレードはD(行わないように推奨する)とされている(日本歯周病学会編、歯周病と全身の健康)。相関関係はあるが因果関係はないと。

妊婦検診後に口腔ケアを受けてBOPが20%以下になった妊婦から生まれた赤ちゃんの体重は220g(7.4%)重く、大腿骨長が1mm長いと言う報告(Takeuchi et al., Arch. Gynecol. Obstet. 287: 951, 2013)がある。Takeuchi論文では何故、こんな結果が出たのであろうか?

Takeuchi論文では、「つまようじ法」の術者みがきが行われている。「つまようじ法」の術者みがきは、通法のブラッシング指導、スケーリング・ルートプレーニング療法と比較すると、1週間で有意差が出るほど歯肉出血(BOP)を減少させることが出来る。通法で「つまようじ法」の術者みがきの1週間値まで下げるには4週間後でも追いつかない(Cakilci, et al., Int. J. Oral Health, 5: 17, 2009)。

胎児の成長に影響が出やすい妊娠期間を31週以降とすると(海野信也他、「推定胎児体重と胎児発育曲線」保健指導マニュアル、平成24年3月発行)、歯垢・歯石除去では治療効果が現れる時期が遅すぎたので、胎児の体重に好影響を及ぼすことはできないだろう。「つまようじ法」術者みがきは、1週間でその効果が現れることからTakeuchi論文の結果に納得できる。

「つまようじ法」で、何故そんなに早く歯肉出血が止まるのだろうか? 出血には内出血と外出血がある。内出血は上皮が健全な場合に見られ、外出血は糜爛(びらん)または潰瘍が出来ている部位に起こる。歯肉出血を止めるには潰瘍を治す必要がある。ブラッシングの刺激で歯肉細胞は核分裂を開始し、増殖する。そして潰瘍が修復され、炎症も消退する。しかし、歯肉細胞の増殖は歯ブラシの毛先が当たっている所でしか見られない。歯肉の炎症の初発は歯間部であり、多発する所も歯間部であるから、歯ブラシの毛先を歯間部に届かせなければならない。それをするのが「つまようじ法」である。

最も細胞増殖が起こる条件は、普通の硬さのナイロン毛で長さ11ミリの歯ブラシを使って、歯肉線維芽細胞では200g重の力で20秒間の刺激が必要である。歯垢・歯石除去では歯肉細胞の増殖は見られないし、炎症性細胞の減少もない。

歯肉出血を止めれば、なぜ胎児の発育が回復するのだろうか? 歯肉出血(潰瘍)部位では上皮のバリアー機構は働かないので、歯周ポケット内の細菌は容易に血中に移行し、全身に回る。また、血液成分があるので歯周病原菌等のレッドコンプレックスは増殖しやすい。歯周病原菌のP.g.は強力な菌体内毒素を持ち、免疫系を阻害する。歯肉出血が無くなればP.g.は休眠状態になるし、口腔内細菌の全身への移行は無くなる。従って、歯肉出血を短期間で止めれば、早期産・低体重児出産は予防できる。

Takeuchi論文において、「つまようじ法」術者みがきでBOPが20%以下にならなかった症例があるのは何故だろうか? それは「つまようじ法」の術式の難しさにある。刷毛を頬舌的に動かさなければならないのが一つ。二つ目は、歯間空隙からはみ出した余分な刷毛が歯間部に入るのを邪魔してしまうことである。

Takeuchi論文は後ろ向き調査である。「つまようじ法」で早期産・低体重児出産の予防が出来ると結論付けるには、仮説の検証が必要である。最も勧められる仮説の検証方法は介入研究である。